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【人マネ】長野県マネ友交流会in伊那 レポート~人材マネジメント部会の成果とは

毎年2回程度行われている長野マネ友交流会は伊那市で6月23日~24日に開催され、長野県内だけでなく群馬県、茨城県、山梨県の参加者も得て、約30人が参加しました。

2018年6月28日

2015年の初開催以来、毎年2回程度行われている長野マネ友交流会(長野県人会)ですが、今夏は6月23日~24日に伊那市で開催されました。

長野県松本市、東御市、小諸市、小布施町、上田市、伊那市、塩尻市の参加者のほか、今回は群馬県渋川市、茨城県笠間市、山梨県甲斐市の3県からも県を越えたご参加を得て、約30人が新たな交流と学びのために集まりました。

部会では「年度」をひとつの区切りとしていますが、「部会に卒業はない」という言葉があり、こうして自主的に学びを得るために全国各地で交流会が開催されています。今回はもっとも活発に会が開催され交流も進んでいる長野での交流会の様子や、振り返りシートに書かれた内容をもとに部会の成果について感じたことを、レポートとしてご紹介します。

(早稲田大学マニフェスト研究所 事務局次長 青木 佑一)

会は冒頭、「人マネに参加してから今日までの変化と取り組み」をテーマにグループに分かれてダイアログ(対話)。

そのあと菓匠Shimizu 清水慎一さんの「特別講演『菓子創りは夢創り』」は盛り上がり、予定時間を大幅オーバーするほど。それを受けて最後に「振り返りダイアログ」として未来にむかって取り組むことを再度グループに分かれて話し合いました。

とくに清水慎一さんのお話は印象的だったようで、「公務員はなんのために仕事をするのか?」「働くは傍楽(はたらく)」「他喜力(たきりょく)」といったキーワードが多くの班で話されていました。

会の終了後に開かれた懇親会は、伊那の食材も出てくるレトロなお店で交流を深めました。

また、翌日は有志で、伊那食品工業で自主的に行われている朝の掃除を見学といなまちマルシェに参加。2日間、大いに語り、楽しみました。

何のために菓匠Shimizuは存在するのか?

菓匠Shmizuさんは、伊那市にあるケーキ屋さん。

代表取締役シェフパティシエの清水慎一さんは冒頭、「自分は菓子屋にはなりたくなかった。高校野球の監督になりたかったが、仕方なく、いやいや菓子屋を継いだ。今は菓子屋で良かったと思えるようになった」と語りました。

自分の夢を諦めて、菓子の勉強を海外でして店を継いだのに、毎日、親子喧嘩をする日々。

「なんのために働いているのか分からなかった」という思いをもったまま、奥様に言われたのが、「なんのためにお菓子屋さんになったの?親を楽にするんじゃなかったの?」という言葉。

子どもが生まれて、親の気持ちを考えるようになった清水さんは、過去にできたのに今できなくなっていること、父や母への感謝をもち、出来ないことをできるようになる努力、「人間誰もが持っていたやさしさ、素直さを取り戻したい」という思いを持つようになります。

自分が働くことで、自分も周りの子どもたちも楽になっていく。

そのなかで、「働く」とは、「傍を楽にする」という考え、つまり「自分の近くにいる人をどれだけ楽にすることができるか」ということだと気づきました。

「何のために菓匠Shimizuが存在するのか?」

イメージトレーニング研究・指導で著名な西田 文郎さんが提唱する他人を喜ばせる「他喜力(たきりょく)」を発揮すること。

「ただお菓子を作って売るだけのお菓子作りはしない。『菓子作りは夢づくり』。ケーキの向こう側にある景色をイメージすることで変わってくる」

菓子を使って、家族団らんの風景をつくりたいという思いでした。

11年前に、近隣の町で親と子どもに関わる悲しい事件がありました。

最初、その事件は自分に「関係ない」と思っていました。

それでも考えるうちに、「自分に責任がある」「なんのために菓子を作っているのか。勉強はしているかもしれない。でも自分は何をしているの?」「できるかできないかではない。そうありたい。周りがどうじゃない、自分がどうしたいのか」と思ったといいます。

2011年、そうした事件が少しでも減るようにと、「夢ケーキ」を通じた「ドリームケーキプロジェクト」をはじめます。

大切なひとと一緒に夢を語り絵に描いて、それをケーキにするプロジェクトです。

「みんなの夢をケーキにしよう。ケーキを通じて自分は何ができるか。」

行政だから、菓子屋だからという枠ではなく、あらゆる職業で「他喜力(たきりょく)」を高めることで、世の中を変えていけるのではないか。

清水さんは参加者にそう問いかけました。

なんのため、誰のために仕事をするのか

長野マネ友交流会は、幹事自治体のマネ友(部会の修了生)が内容もある程度自由に企画し、開催しています。今回の伊那会では、「振り返りシート」として以下の3項目を参加者に記入してもらっています。

  1. 人マネに参加してから今日までの変化と取組み
  2. 菓匠Shmizu 清水慎一さんのお話を聞いて
  3. これからの自分が取り組むこと

事務局のご協力を得て、「2.菓匠Shmizu 清水慎一さんのお話を聞いて」の項目について書かれたコメントを一部紹介します。

傍楽:誰かの為に仕事をする・・・というのは公務員の大前提だと思う。自分の為じゃなく誰かを目的とした仕事ができているか。改めて仕事の見直しをしたい。

"傍楽" 父が口癖のように言っていることを思い出しました。
熱意を感じた。仕事は目的でなく手段の一つ。
自分の職場だとどうするか。仕事を通じて、どうしたいか不明確
自分が楽しむことが、明るい市役所につながる。

・(改めて)目的が手段であること・・・目的と思っていたことの先が?にあると感じた。ただより抽象的になるが…
・他喜力について、改めて考えさせられた。そういう機会、交流会も同じ。定期的な意識の確認。思いを共感(仲間、マネ友)し合うことが大事だと思った。

さらに、振り返りシートの「3.これから自分が取り組むこと」には、「自分の周りの人、同僚が楽に働くことができる方法を一歩とする」「今の気持ちを忘れないこと」「挑戦すること、一歩ずつでも進化すること、変化に敏感になること、新しい価値を提供すること」「研修はやってきたが、今後は人材育成計画等を改訂していければいいと考えている」といった言葉が並びました。

私も目の前の仕事に流されて、「なんのため、誰のために仕事をしているのか」という目的の部分は忘れがちです。もしかしたら皆さんも心当たりがあるかもしれません。

参加者は、「仕事そのものは目的ではなく、手段の1つである」と書きました。

そして「誰かのために」は、公務員の大前提だと感じて、ご自身の仕事を見直す機会としています。

部会のキーワードの1つに、「価値前提で考える」という言葉があります。

これまでの積み重ねから考えることも大事ですが、それだけでなく、「ありたい姿や目的から考える」ことで、より価値のある仕事ができるようになると思います。

「傍楽」という言葉には、「なんのため、誰のため」ということを意識するような言葉の力がありました。

また、同じ思いを共感する機会を定期的につくることが大事であることも参加者は感じたようです。

部会で学んだこと、感じたことを思い出す場をつくること。これを部会では「(気持ちの)追い炊き」という言葉を数年前から使っています。

定期的にこれだけの人数が自主的に集まるマネ友交流会は、大切なことを改めて思い出す、意識するような力があるのだと思います。

人マネの成果とは

昨今、所属の組織を越えて「外」と「内」を行き来する中で学習する「越境学習」が注目されています。境界を越えて学ぶことにより、リーダーシップや多様性の発揮や、自明で暗黙の前提となっていた価値観に変容があることが知られています。

 

人材マネジメント部会もある種の越境学習といえると思いますが、「いきなり組織に持ち帰ると反発を受ける」「組織文化に飲み込まれて体験が風化してしまう」という懸念や、「何かしようと思っても、最初の一歩のハードルが高い」といった声があります。

体験が生かされる組織にしていくには、「どのように庁内にいいサイクルを埋め込んで組織文化を醸成していけばいいのか?」。

これらは多くの参加者・マネ友が抱える悩みだと思います。

人材マネジメント部会は2005年に創設され、計13期を数えます。

今回参加した自治体には13期すべてご参加いただいている団体もありますが、多くは5~6期のご参加でした。

部会では、「人を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目指しています。

今回の参加自治体で言えば、松本市では、2015年からほぼすべての係長を対象にした「ダイアログ研修」を実施してすでに数百名が受講していますし、塩尻市では、経営理念の作成や人材マネジメントの責任者である課長職を対象とした「塩尻市版人材マネジメント部会」を職員研修の一環として運用し、今年度で4年目です。

他の自治体でも部会に参加以来、組織成果や個人の成果、オフサイトミーティングによるつながりづくりなど多くの活動事例があります。

5期のご派遣であれば、15人の職員が部会に参加し、学び、行動が積み重なっているのですが、胸を張って「組織が変わってきた」と言えるところは、まだまだ多くないというのが現状です。

ただ、そうした中でも、部会で宣言した/参加してから開始した取り組みを続けよう、学んだことを現場の業務に生かしていこうという意識をもった方は、本当に多くいらっしゃいます。

振り返りシート「1.人マネに参加してから今日までの変化と取組み」に書かれた、参加者の声を転載します。

良い組織、楽しく仕事ができる職場をつくるために自分にもできることがあると思えるようになった

・自治体を越えて話し合える場があって良かった。人とのつながりを大事にしたい。
・他市町村の方々は活動を継続している。当市でも何かやっていきたい・・・どうしたらいいだろうか。

地域とともに、街に出て、多くの人と知り合い
自ら変化を創り出す。多くの人をまきこむ。シゴトをするようになった

・組織について広い視野で意識できるようになった。
・人ごとで「誰かがやれば」ではなく「自分でやる」を意識できるようになってきた。

人マネ本来の趣旨である「組織を変える」事はどの自治体も大変苦戦している事がわかったが、個人として、学んだ事、考えた事は根強くそれぞれの中に生きていることを実感。
仕事に対して、周囲に対しての関わり方も変化しているため、今後役職が上がって、組織をマネジメントする立場にそれぞれが就いた時に、大きな影響を与えられると思う。それまで意識を高く持ち続ける事が大事。

組織や現場をよりよくしよう、職場をもっと価値ある仕事ができるものにしたいと考え、少しずつでも取り組みをすすめる皆さん。

このマネ友交流会を通じて、楽しむことはもちろんですが、悩みや思いを率直にぶつけあい、腹蔵なく語り合うことで、大切なことを改めて思い出す、意識する機会となったようです。

部会参加から年数が経っていても、会うのは久しぶりでも、同じ思いをもっているという共通の理解をもって、参加者同士の対話がなされていたように思えます。

豊かな対話がなされる様子、皆さんの姿自体が、なにより部会に参加した大きな成果だと感じています。

早稲田大学マニフェスト研究所 事務局次長 青木 佑一

地域経営をリードするための人材マネジメント部会

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